痛くない漏斗胸、鳩胸手術
漏斗胸あるいは鳩胸の手術を考えているのだけど、手術が怖くて漏斗胸専門の外来を受診するのをためらう人は多いと思います。
手術が怖いという理由は以下の2点が大きな原因でしょう。
- ① 手術の危険性を心配している
- ② 術後の痛みが強いといわれている
● 安全な手術を目指して
手術の安全性は最も重要です。当漏斗胸治療センター長の植村貞繁はこれまでに多くの手術経験があり、手術の安全性には最も力を入れて診療を行ってきました。手術経験が豊富であることは安全性に欠くことはできません。また、漏斗胸の術中合併症で最も危険な心臓や肺の損傷を予防する対策をしっかり行っております。その対策の一つがクレーンテクニックです。手術が始まって一番最初に行う手術操作です。胸の凹んだところをクレーンのような装置で持ち上げ、胸腔鏡を併用することで、胸の中が広く見やすくなり、安全な手術ができます。
● 無痛手術
漏斗胸は術後の痛みが強いという話を聞くことが多いと思います。
確かに漏斗胸では胸骨や肋骨が陥凹・変形していますので、これを修正するために、骨に大きな力が加わります。痛みを止める何らかの方法が必要です。
当院では手術の前に硬膜外麻酔を行ってきました。これにより術後数日の痛みはとることができます。しかし、これでも問題はあります。一つは硬膜外麻酔を行うことによる合併症の問題です。硬膜外麻酔は麻酔科の先生が行います。非常に気をつけて行いますので、合併症のリスクは低いのですが、それでも心配な事はあります。また、硬膜外麻酔は数日で終わります。その後に痛みが残ります。
硬膜外麻酔に代わる方法として、肋間神経をブロックする方法があります。術後の胸の痛みを感じるのは肋間神経です。この痛みの刺激が伝わるのを直接遮断すれば、痛みそのものを感じることがありません。いわゆる無痛手術です。
当院では手術中に肋間神経ブロックを行い、術後長期の痛みを除く方法を行っています。これにより痛みは非常に軽くなり、硬膜外麻酔の必要はなくなりました。手術の次の日から歩くことができます。退院後も数ヶ月効果は持続しますので、学校へもどるのも早く、仕事への復帰もこれまでより早くなります。当院で行っている無痛手術の詳しい内容は外来を受診した際におたずねください。
漏斗胸治療センターが開設されました!
2020年4月より漏斗胸治療センターが開設されました。
センター長は前・川崎医科大学小児外科教授の植村貞繁です。
漏斗胸の手術経験としては、これまでに1300件(川崎医大では1000件)の手術経験があり、この分野で国内トップクラスです。
当院では2014年から漏斗胸専門外来を行ってまいりました。
2020年に新しく開設された漏斗胸治療センターでは、植村貞繁がセンター長となります。他に、非常勤スタッフとして木曜日と土曜日に大阪市立大学小児外科准教授の中岡達雄先生が来ます。また、火曜日には神戸大学小児外科の医師が来ます。従来行ってきた漏斗胸の外来診療と同時に手術治療とを行ってまいります。当センターでは漏斗胸と鳩胸の総合的診療を行います。
外来実績 | 2020年 (5-12月) |
2021年 | 2022年 | 2023年 |
外来総数 | 434 | 741 | 859 | 922 |
新規患者数 | 101 | 149 | 170 | 136 |
手術実績 | 2020年 (5-12月) |
2021年 | 2022年 | 2023年 |
Nuss法 | 22 | 62 | 68 | 71 |
バー除去術 | 28 | 42 | 47 | 51 |
その他 | 1 | 2 | 2 | 2 |
合計 | 51 | 106 | 117 | 124 |
受診される漏斗胸、鳩胸の患者さんは西宮市や芦屋市、神戸市、尼崎市、宝塚市、伊丹市、姫路市など兵庫県の方が多いのはもちろんですが、大阪、京都、奈良、滋賀、和歌山、三重といった近畿地方から受診される患者さんも多いです。また、東では名古屋地域や東京、神奈川から、西の方では広島や岡山、四国の方から受診される方もおられます。当院は神戸三宮と大阪梅田のちょうど中間にあり、またJR西宮駅と阪神西宮駅の間に位置していて、駅から歩いて約5分と交通の便がいいところにあります。
漏斗胸、鳩胸でお悩みの方は一度診察を受けてみませんか?外来受診は下記の方へ電話して予約をお願いします。
外来日 | 毎週水曜日午後 第1・3土曜日午前(植村) 第2・4土曜日午前(中岡) |
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電話予約 | 0798-36-1880 |
胸郭異常(漏斗胸・鳩胸)でお悩みの方へ
漏斗胸とは?
胸の中央部が凹んでいる状態です(写真参照)。ちょうどミゾオチといわれる胸骨(胸の中央にある縦長の骨)の下端(図参照)は多くの人で少し凹んでいます。このちょっとした凹みだけでは漏斗胸とはいいません。このミゾオチを中心として胸が深く、あるいは広く凹んでいる状態を漏斗胸といいます。このような胸の凹みの状態は様々なタイプがあります。典型例(写真1)、非対称性変形(写真2)、浅く広い変形(写真3)など。
(胸の骨格:肋骨と肋軟骨、中央の胸骨を示す)
(写真1a:典型例 小児)
(写真1b 典型例 成人)
(写真2:非対称例 左右の形が異なる 中央の心臓が圧迫されている)
(写真3:浅く広い陥凹)
漏斗胸といわれました。どうしたらいいのでしょうか?
漏斗胸は見ただけでその異常はすぐにわかります。(写真1)胸の凹みの程度は人により様々で、軽い凹みから非常に高度の凹みまであります。しかし、患者さんにとって自分は軽い状態なのか、高度なのかわからないと言って不安になる人が多いようです。確かに、見ただけで異常だというのはわかると思いますが、その程度を判断するのは難しいでしょう。外見だけで正確な状態を判断できないため、胸のレントゲン検査が必要です。その他に、詳細な検査としてCTや心臓超音波検査、心肺機能検査などが必要こともあります。当院の「漏斗胸治療センター」では漏斗胸治療を専門に長い間行ってきた植村が診察にあたります。まずは診察に来ていただき、その上で治療の必要があるのか、どのような治療法があるのかということをご説明します。手術が必要であれば、植村が執刀医として手術を行います。
いつ受診したらいい?
漏斗胸が気になったり、不安になったりしたらいつでも受診してください。年齢が小さい人(6歳以下)では胸の形は成長とともに変化することがあります。良くなることも、逆に進行してくることもあります。長期の経過観察が必要です。手術が必要と判断されるのはある程度体が大きくなってからです。「それまでに何かできることは?」そういう相談にもお応えします。学校検診で胸郭異常といわれて受診する患者さんも多数おられます。学校で胸の形に異常があると言われたときには一度受診して下さい。もう成人になって、自分は手術が受けられるかどうかと心配する方もいます。そのような方にも治療が必要なのか、手術するとしたらその方法や手術の問題点などをご説明いたします。
当院の「漏斗胸専門外来」は毎週水曜日午後と土曜日午前とです。
出張などで外来の変更もありますので、診察はあらかじめ当院に電話して(0798-36-1880)受診日を予約してください。
漏斗胸の症状 ― 何が問題? ―
①呼吸循環器の問題
胸が凹んでいるすぐ奥には心臓があります。心臓は胸骨と背骨の間にありますが、胸が凹んでいると心臓が前から押され、背骨と胸骨の間が狭くなり、心臓が窮屈になります(写真2、CT写真)。この状態では心臓から送り出される血液の量(心拍出量)が少なくなります。特に、激しい運動をするときは、心臓がしっかり働いて、十分な血液を送り出すことが必要ですが、漏斗胸ではそれが十分できない状態になります。そのため、運動時には疲れやすい、息があがりやすい、動悸がするといった問題がでてきます。胸の圧迫感があるとか、胸が痛くなるという症状もでることがあります。
また、肺も同様に圧迫されます。風邪をひいて咳が長引くという症状は、圧迫された肺や気管支の炎症がとれにくいためです。呼吸機能にも影響がでます。漏斗胸の患者さんで呼吸がしにくい、大きな息が吸いにくいといった症状はよくあります。これはNuss手術により改善することが明らかになっています。
漏斗胸における心肺機能の問題を詳しく調べるために、当院では心臓の専門医と協力して心臓超音波検査を行うことができます。また、運動負荷(自転車を漕ぐ運動)を行いながら心肺機能を調べる検査も行います。このような評価を行う施設は国内では他にあまりありません。
②心の発達、心理的な障害
胸の形は自己の人格形成や自信を持って生活するという意味で非常に重要です。よく激励する際に「胸を張っていきましょう」といいますが、漏斗胸の人は皆猫背になり、胸を張ることができないのです。手術をすると猫背は改善し、姿勢が良くなります。
漏斗胸は人格形成、人間形成にも影響しています。子供の頃からの心理的負担は子供の成長・発達に影響があります。自信を持って生きていくことと、胸を張って生きていくことは同意義で、漏斗胸がそれを阻害しているのであれば、治療することはとても重要です。
特に女性では、胸の形は美容上非常に重要です。成人漏斗胸の人では、胸の形が左右異なる形になることがあります。そうなると、乳房の形も左右の大きさが違うように見えます(下の写真)。実際の乳房の大きさに差があるのではなく、肋骨の形が違うためにそう見えるのです。また、胸の中央が左右同じように凹んでいる場合でも、乳房が共に内向きになり、美容上問題となります。患者さんはブラが合わなくて困ると言います。これを治すには、肋骨の形自体を良くしないと、乳房形成だけでは改善しません。
女性の患者さんには将来の美容的配慮も行う治療を目指しています。
鳩胸の治療
鳩胸は漏斗胸と逆で、胸の中央部が突出している状態です。鳩胸には小学生の頃から胸が出てくる場合と中学生の頃に突出が目立ってくる場合があります。鳩胸は外見的に目立つため、精神的な影響が大きい疾患です。胸が痛いという症状もあります。中学生以上の年齢の鳩胸は手術で胸の形を正常の形にします。手術の方法は漏斗胸のNuss手術とよく似た方法ですが、胸の中央部の突出した部分を押さえ込むためのチタンバーを入れます。同時に、胸の下にある凹みを同時に持ち上げることも行います。
詳しいことは下のPDFファイルをクリックして御覧ください。鳩胸治療の方法がよくわかると思います。
- 鳩胸 術前のCT画像
- 鳩胸 術後のCT画像
治療の方法
手術に関するFAQ
- 術後の痛みが心配です。
漏斗胸のNuss法の手術の際には痛みをとる方法として、肋間神経のブロックを行います。痛みが伝わる神経を遮断しますので、無痛手術が可能です。術後1日目から歩くことができます。当院で行っている方法は術後長期にわたり痛みに効果があります。このように、術後の痛みがないようにすることを目指しています。 - 胸に入れたバーがずれる?
Nuss法の術後にバーがずれないように、連結型スタビライザーを使用します。これを使うとずれる心配はありません。そのため、術後3ヶ月以降は運動が普通にできます。 - 入院期間は?
術後6日目で退院の予定です。小児でも大人でも同じです。 - 術後どれくらいバーを入れておく?
術後2年から3年経過してバーを取り除きます。 - バーを取り除くと再発する?
術後に再発が心配されるのは10歳以下の小児です。中学生以上で術後の再発はありません。バーを取り除くと少しの後戻りが生じますが、それ以上に胸は持ち上がるため、手術前よりずっと良くなってきます。 - バーを抜く時の入院期間は?
2泊3日です。ほとんどの人は手術の翌日に退院します。痛みは鎮痛剤の飲み薬で十分です。
①手術
漏斗胸で最も多く行われている手術法はNuss(ナス)法といわれる手術法です。植村はこの手術を日本で最初に行い、これまでに1200例を超える手術を行ってきました。
胸を持ち上げるのに金属(チタン製)バーを使用します。これは凹んだ肋骨、胸骨の裏に入れて、凹みを支えるようにします。バーは1本のこともありますが、体が大きく凹みが強い場合は2本(下のレントゲン写真)、あるいは3本入れることがあります。同時に術後にバーがズレないようなスタビライザーを使用します。最近、植村は新しいスタビライザーを開発しました。これは術後にバーのズレをほとんど起こさないようにする手術器材です(下レントゲン写真)。
これを用いることで、術後のバーのズレを防止することができます。
また、手術の合併症を防ぐ方法や術後の改善を向上させる方法を開発してきました。合併症の中でも心臓を損傷する事故は絶対におこしてはなりません。そのために、術中に陥凹した胸骨を持ち上げて、心臓の前を広くして、心臓の損傷を防ぐ方法(クレーンテクニック)を採用しています。その他に、肋骨や肋軟骨の高度の湾曲変形を修復する骨切開を追加することで、年齢の高い人や高度の変形に効果があり、術後の胸の形の改善に寄与しています。肋軟骨を切開する場合、胸の中央に1〜2cmの小さい傷が入ることがあります(下写真)。
年齢が低い(6歳から8歳)方に手術が必要な場合があります。Nuss法では成長に伴う再発の心配がありますので、手術の方法としてはNuss手術とは異なりますが、成長や将来の再発にあまり影響がない方法を行います。
手術の効果をご確認なりたい方は当院の漏斗胸治療センターを受診して下さい。参考になる資料をご覧いただけます。
②手術の年齢
手術の年齢は基本的に中学生以上が原則です。小学生で症状があり、本人が治療を希望している場合はまず手術以外の治療法を検討します。小学生で手術を行う場合はNuss法以外の方法で行います。成人は60歳台まで行いますが、年齢が高く合併疾患のある方は慎重に判断します。
③術後の経過
手術を受けるかどうか迷っている人が多いと思います。手術をためらう人が一番心配していることは術後の痛みではないでしょうか。漏斗胸の手術は痛く苦しいという評判が広まっているようですが、手術の痛みを取り除く方法があります。当院では肋間神経に対するパルス高周波治療やラジオ波治療を行うことができます。痛み軽くする方法については外来でしっかり説明いたします。心配な方も痛みをとる方法をしっかり聞いてみてはどうでしょうか。
漏斗胸の手術では胸の中に金属(チタン製)バーを入れます。術後、1〜2ヶ月はこのバーや肋骨の矯正部位が安定する時期ですので、運動は制限してもらいます。経過がいい人では、術後1ヶ月で軽いジョッギングができるようになります。術後3ヶ月するとほとんどのスポーツはできるようになります。格闘技やラグビーなど胸に強い衝撃があることは避けて下さい。これを3年間留置して、その後抜去します。その際は2泊3日の入院となります。
④慢性の痛みに対する治療
退院後、胸の痛みに対して、鎮痛薬で治療していきます。当院で手術を行った患者さんでは1ヶ月以内に薬が不要となる人が多いです。それでも痛みが続く場合は肋間神経にパルス高周波をあてる治療法を行います。術後、痛みが長く続く場合はご相談ください。
バーを抜いてから胸の凹みが再発しますか?
Nuss法術後に入れたバーを抜いた後にまた後戻りを心配する人がいますのでお答えします。確かに、抜いた後は数mm後戻りがあります。しかし、胸の凹みは30mmから40mm持ち上がりますので、抜いた後の全体の持ち上がりは術前よりずっと改善しております。これは成人でも同様です。
胸の下の方は持ち上がりますか?
胸を持ち上げるために金属のバーを入れます。このバーより下の肋骨は押されて、少し凹みます。そのため、胸の下の持ち上がりは不十分となることもありますが、しかし、肋骨に切れ目を入れて、胸の下の方も持ち上げるようにすると、胸全体の形が自然な形で良くなります。
保存的治療
胸の陥凹を大きな吸盤のような装具(Vacuum Bell)を使って治療する方法です。この治療法は正しく使わないと効果はありません。効果があるのは、
- 年齢が小学生
- 胸の凹みが比較的軽い
- 胸壁が柔らかい
- 毎日、朝晩使用し1年以上続ける
という条件があります。また、この装具は自費で購入していただきます。詳しいことは外来でお尋ね下さい。
漏斗胸について心配な方は当院の「漏斗胸専門外来」を受診して下さい。「漏斗胸専門外来」は、毎週水曜日午後と土曜日です。
出張などで外来の変更もありますので、診察はあらかじめ当院に電話して(0798-36-1880)受診日を予約してください。